あらすじ
1910年日本帝国主義は、朝鮮併合を断行、「同化政策」を掲げ、農民から土地を奪い、故郷を捨てざるを得なかった朝鮮人労働者は炭鉱夫、紡績、造船、鋳物工場などで劣悪な条件で働かされていった。日露戦争勝利に味をしめた日本は、中国大陸へ侵略を進めていく。国内では、驚異的なインフレが進み、生活苦を理由とする自殺や捨て子、社会的犯罪、労働争議が多発、米よこせデモには1000万人以上が参加するなど、騒然としてきていた。
1880年(明治13年)宮城県石巻に生まれ、自由民権主義者の父親の影響を受け、権利と自由を建学の精神とする明治法律学校(現明治大学)に学んだ布施辰治は、1902年21歳で判検事試験に合格、宇都宮地裁検事代理として、法曹の道を踏み出した。足尾鉱毒事件での田中正造天皇直訴の翌年で社会は沸騰していた。10ヵ月後、布施は、検事の仕事とは虎や狼の行為だと「挂冠の辞」を残し、弁護士の道へ進む。その後、トルストイの日露非戦論に共鳴、その人道主義に心酔、後に「弁護士活動を前進させ、社会運動の一兵卒となる」(自己革命の告白)を行い、弾圧と闘う弁護士活動を終生貫いていく。
1919年3月1日、朝鮮独立宣言書が発表され、大運動が起き、それにつれて弾圧も激しくなり、布施は、その弁護を引き受けつつ、朝鮮に渡り各地で朝鮮総督府政治への痛烈な批判を展開する。また、国民の政治参加の権利を実現するための普通選挙運動や、1921年造船所争議の大きな高揚の中、自由法曹団結成のために奮闘していく。
1923年9月1日の関東大震災下における朝鮮人たちの虐殺事件の真相を明らかにさせる闘い、借家人同盟結成への尽力、など精力的な活動を展開しつつ、1926年大逆罪をでっち上げられた朴列・金子文子の弁護に立つ。また、石巻小作争議にかかわり、小作人の耕作する権利を認める論陣をはり、さらには岩手県北上山地の入会地扮装の調停も行っていく。
こうした布施の活動に対して、権力の側からの攻撃も苛烈であった。治安維持法違反事件の弁護活動での言動を問題にした懲戒、布施の論文を問題視しての新聞紙法違反、そして弁護士資格の剥奪、治安維持法違反で投獄。父親を心配した息子杜生も学生運動を理由に検挙され、44年獄死。
戦後いち早く朝鮮建国憲法私稿作成の取り組みなど活動を開始した布施は、三鷹事件で弁護団長を務め、松川事件・メーデー事件弁護にも関与していく。そして、非業の死を遂げた息子杜生を重ねて若者たちの命を救うために全身を傾けていった。その生涯は、まさに「生きベくんば民衆とともに、死すべくんば民衆のために」を貫いた生涯であった
2004年新潟中越地震後のソウル、80年前、朝鮮大水害に、布施が行った日本募金活動の恩に報いようと募金活動をする人たちの姿が全国ネットで放映された。その後、韓国政府は独立に寄与した愛国の士に贈られる「建国勲章」を布施に贈る。
虐げられる者、弱者の立場に身を置き、人間としての権利と尊厳を守るために民衆とともに戦い続けた弁護士・布施辰治が、今生きるとは何かを私たちに語りかける。
「世の中に一人だって見殺しにされていい人類がないと同時に、正しい文化には一人だって置き去りにされていい人類がないのだ」
キャスト
赤塚 真人 | 浅野 允之 | 石沢 真由子 |
大木 章 | 木村 加奈 | 酒井 和昭 |
白仁 裕介 | 鈴木 里衣菜 | 武田 和佳 |
寺本 岳矢 | 冨田 祐一 | 早坂 蓮 |
船津 基 | 真延 心得 | 劇団GO ART |
ナレーター
湯浅真由美
朗読
中村雅俊 | 浜名美貴 | |
パク・スファン | チョン・ヒョージン |
インタビュー・証言者
阿部 三郎 | (弁護士・元日本弁護士連合会会長) |
阿部 一彦 | (旧女川町立第四中学校教諭) |
上田 誠吉 | (弁護士・布施弁護士と共に活動・故人) |
大石 進 | (布施辰治の孫) |
大石乃 文子 | (布施辰治の長女・故人) |
大塚 一男 | (弁護士・布施弁護士と共に活動) |
角田 義一 | (弁護士) |
庄司 捷彦 | (弁護士・石巻在住) |
竹澤 哲夫 | (弁護士・布施弁護士と共に活動) |
森 正 | (名古屋市立大学名誉教授) |
山泉 進 | (明治大学教授) |
女川第四中学校の生徒たち | |
李 圭洙 | (韓国•東亜細亜學術院教授) |
姜 尚中 | (政治学者) |
姜 徳相 | (在日韓人歴史資料館館長) |
金 英 | (在日朝鮮人、布施に弁護してもらう) |
辛 昌錫 | (布施弁護裁判の被疑者) |
鄭 畯泳 | (韓国在住・布施辰治顕彰運動者) |
韓 勝憲 | (韓国在住・弁護士) |
監督・脚本
池田博穂
音楽
小六禮次郎
スタッフ
撮影 | 野間 健 |
照明 | 岩崎定雄 |
美術 | 春木 章 |
装飾 | 相田敏春 |
メイク | 金森 恵 |
録音 | 本田 孜 |
編集 | 岡村光雄 |
プロデューサー
吉村廣重 | 池田博穂 | |
山本 洋 | 桑山和之 |
助監督
田所一郎
A P
相子奈菜
製作
Office 池田
製作協力
有限会社共同企画ヴォーロ
株式会社法学館憲法研究所
桑山プロダクション
企画・製作
ドキュメンタリー映画「弁護士 布施辰治」製作委員会

布施辰治役 赤塚真人(あかつか・まこと 俳優)
「映画撮るから手伝って!」「はい!喜んで」。
どんな映画を撮るかも聞かず、池田博穂監督からの電話を切った。後日、「弁護士 布施辰治」のドキュメンタリー映画と知る。
「布施辰治?誰だろう?どんな人物だろう?」これが私の正直な感想でした。
私の尊敬する山形在住の弁護士、佐藤欣哉先生に布施辰治のことを尋ねてみたところ、「布施辰治先生は私の尊敬する大先輩です。布施先輩を赤塚さんが演じるなんて楽しみですね。ぜひ、協力させてください。」
思ってもみなかった嬉しい言葉が返ってきた。あの時代(明治憲法下)にあって、国家権力、社会的権力と真正面から戦い、人権擁護に生命を捧げた不屈の正義感には、ただ、ただ、強い感動を覚えます。
この映画に参加できることの幸福を実感しております。